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卒業論文・修士論文・博士論文
2022年8月9日
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2021年度
修士論文
近年のITの進展によって,交通情報の収集と提供は将来より重要な役割を持つと予想される.一方で,車両への交通情報提供は一般的には必ずしも社会的に効果があるとは限らないことが分かっている.交通情報を常に正しく提供する完全情報よりも,情報をドライバーに与えない無情報や,情報にノイズが混じり部分的に正しい情報を提供した方が交通管理者にとってより最適な結果をもたらす場合が存在する.このような情報提供問題を取り扱うものにゲーム理論の分野である情報デザインがある.情報デザインでは,状態の不確実性を含む環境において情報を通じて他の経済主体の行動に影響を与えることを考え,情報を提供する送信者にとって最適な結果をもたらす情報構造(最適シグナル)を分析するものである.本研究では,情報デザインのフレームワークを用いて需要の不確実性に着目した交通情報モデルを作成し,交通管理者である送信者にとっての最適シグナルの導出・分析をした.情報デザインの手法であるメカニズムデザインアプローチとビリーフデザインアプロ―チのそれぞれを用い,メカニズムデザインアプローチでは個別シグナル,ビリーフデザインアプロ―チでは公共シグナルによる最適シグナルを扱った.それぞれの手法において,送信者がドライバーの総コストを最小化したいと考えている場合と,最適な交通割合に配分しようとしている場合の2つの設定で交通モデルを作成した.メカニズムデザインアプローチではいずれの設定においても最適シグナルによって結果が完全情報や無情報よりも改善される場合があることを示した.ビリーフデザインアプローチでは,総コスト最小化の設定においては,常に完全情報の提供が最適シグナルとなることが分かった.一方で,最適な交通配分の設定においては最適シグナルによって完全情報や無情報よりも改善される場合があった.ここでは特に,最適シグナルが無情報や完全情報に同等となる場合とそれ以外の場合のパラメーター設定について詳細に分析した.最後に,本研究の交通モデル設定におけるメカニズムデザインアプローチとビリーフデザインアプローチの両手法の特徴を比較し,本研究の交通モデルでは個別シグナルのメカニズムデザインアプローチの方が高い効果が見られた.
近年,世界的に新型コロナウイルスが流行しており,人々の行動が大きく変化した.首都圏鉄道通勤者においては,在宅勤務や時差通勤のような柔軟な働き方が進むことで鉄道需要の構造が変化した.こうした中,首都圏の鉄道事業者と政府は,ピーク時間帯に運賃に上乗せして課金することで混雑の平準化を目指す運賃システムである時間帯別運賃の導入を検討している.時間帯別運賃の検討においては,新型コロナウイルスによる影響が都市鉄道通勤者の出発時刻選択行動にどのような変化をもたらすのかを予測した上で運賃設定を行う必要がある.そこで本研究では,出社時間が決まっている通勤者とフレックスの通勤者が同時に列車を選択する状況を,マルチクラス配分モデルの枠組みを用いて出発時刻選択モデル・乗客需要配分モデルとして構築した.そしてそれらのモデルを用いてポストコロナを想定した4種類のシナリオ(1.在宅勤務の増加,2.フレックスの増加,3.混雑に対する嫌悪感の増加,4.郊外への移住の促進)ごとに時間帯別課金シミュレーションを行った.また,混雑率と鉄道事業者が時間帯別運賃によって得られる総料金収入についての評価も行った.シミュレーションの前に,新型コロナウイルス流行時の人々の行動実態を把握する目的で携帯電話の位置情報を用いた滞在人口の分析を行った.その結果,首都圏の主要な放射方向路線において,新型コロナウイルス流行に伴うメッシュ内滞在人口の変化を確認した.時間帯別課金シミュレーションでは,複数の郊外駅から単一の都心駅に向かう多対一の単一方向路線を分析対象とした.シナリオごとの分析の結果,通勤者の需要構造が直接的に変化する施策(在宅勤務,フレックス,郊外移住)が進むにつれて,混雑率が平準化され,それに伴い鉄道事業者の総料金収入は減少することが示唆された.また,混雑に対する嫌悪感が増加するにつれて,文字通り混雑を回避するため,混雑率が平準化され,それに伴い鉄道事業者の総料金収入は減少することが示唆された.シナリオごとの分析に加えて,構築したモデルの実路線への適用を考えるために西武新宿線を対象とした分析も行った.その結果,シナリオごとの分析と同等の結果が認められ,このモデルは実路線においても適用可能であることが示された.
近年の観光客数増加に伴うオーバーツーリズムが問題視されている.その対策の一つとして混雑課金政策の導入が検討されている.しかし,混雑課金導入事例の多くは通勤交通が卓越した都市中心部を対象としており,移動の必要性や公共交通機関の容量の違いから,過去の事例を参考に施策導入の効果を予測することは難しい.したがって,混雑課金をはじめとする交通需要マネジメント施策の導入にあたって,観光客の周遊行動を適切に記述した上で,施策導入効果を予測する必要がある.本研究では,観光周遊行動を対象としたアクティビティベースドモデルを混合整数計画問題の枠組みを拡張して構築した.そして,交通施設の動的な混雑に伴う旅行時間の変化を考慮した観光客の移動・活動スケジュールの動的利用者均衡配分を求めた.また,そのモデルを用いて,交通需要マネジメント施策が導入された際の観光地の交通需要の変化を予測し,施策の効果を評価した.鎌倉市で現在検討されている「(仮称)鎌倉ロードプライシング」を対象に,鎌倉市を想定する仮想ネットワークを作成した.そして,鎌倉市が実施した来訪者アンケートを基に,異なる特性を持つ複数の観光客層を設定し,観光客の周遊行動を予測した.また,道路ネットワークと観光客への影響の観点から,異なる課金額を設定した4種類の施策の評価を行った.分析の結果,課金額を増加させていくにつれて,道路ネットワークの混雑状況が改善されることが示された.特に自動車分担率の低下への影響は顕著であり,自動車流入交通量のコントロールに混雑課金の導入および金額の設定が寄与できることが確認された.さらに,パーク&ライドへの転換が発生したことから,他の交通需要マネジメント施策との相乗効果が見込めることが示唆された.また,課金額の増加と共に観光客の総旅行費用も増加するため,高い課金設定は観光客の効用を下げ,観光地の魅力を低下させることが示唆された.以上のことから,課金額の増加に伴いネットワークの混雑は解消されるが,観光客の効用は低下することが示された.
現在日本の東京都市圏における人々の一日の移動は自宅と勤務地を往復する単純なパターンが半数以上を占めている.新たなモビリティサービスであるMaaSは交通モード間の情報や料金体系を統合して利便性を上げることで移動を促進する可能性が期待されている.本研究ではMaaSの導入による人々の活動変化を評価する為に,サブスクリプションサービス(定額料金の支払いで一定区間の交通サービスを利用し放題になるサービスを指す)の影響を考慮したActivitybased交通行動モデルを構築した上で,MaaSの導入による人々の活動変化の予測とその時のサブスクリプション料金水準を定量的に推計することを目指した.本研究のモデルは,MaaSが導入される前の現在のデータからでもMaaSの導入評価を可能とするために,定期券に着目した.具体的には,通勤(通学)定期券を「サブスクリプション料金を支払ってある一定の範囲での自由な乗り降りを可能とする利用する」という観点から見て,そのサービスを拡大したものをMaaSとして捉えた.モデル構造は,活動パターンを選択した後,人々はまず定期券範囲内と範囲外のどちらに行くかを決定してから,具体的な目的地や経路を決定すると仮定して,目的地選択を二段階に分けたモデルを構築した.パラメータ推定結果からは,女性や20歳未満の人は定期券範囲内を選択しやすく,残り活動可能時間が150分以上の人は定期券範囲外を選択しやすいという結果が得られた.また,女性や残り活動可能時間が90分以上の人は寄り道を行いやすいという結果が得られた.構築したモデルを用いて山手線沿線と東武東上線沿線を対象として,それぞれにMaaSを導入した場合のシミュレーションを行った.活動変化についてはMaaS導入後にすべての年齢層で寄り道が増加した.サブスクリプション料金は,個人の属性や自宅・勤務地の場所によってそれぞれの最大支払い意思額を定量的に算出した.その値は,女性や20歳以下の人ほど高く,MaaS導入エリアから自宅が離れている人ほど低くなることが分かった.
卒業論文
適切な交通情報の提供により交通流の改善を図る自律分散型交通管理のため,Iwase et al.は交通流の振動現象(ハンチング)を抑制する情報提供方式である自己実現シグナルの概念を提案した.さらに鵜飼・福田は,自己実現シグナルによるハンチング抑制効果について集団室内実験を通じて検証した.しかし,その実験は小規模でハンチング抑制効果を適切に分析するには不十分であった.そこで本研究では,より多数の被験者が参加するインタラクティブ・オンライン経路選択実験を実施し,自己実現シグナルによるハンチングの抑制効果を分析した.実験の結果,自己実現シグナルに基づく交通情報の散らばりが大きい場合においてハンチングの抑制効果が確認された.さらに,Mixed Logit Modelを用いて個人レベルでの情報遵守行動を統計分析し,その規定要因を明らかにした.
本研究では,近年我が国において実施された地域間配分政策(Place-Based Policy)が国土全体の人口分布や地域経済に与えた影響を定量化し,事後評価を行う.そのために,定量的空間経済学(QSE)に立脚して地域間人口移動や集積の経済を考慮した都道府県単位の多地域モデルを構築し,4種類の地域間配分政策による影響を分析した.同政策が実施されなかった場合の反実仮想シミュレーションを行った結果,同政策により労働者数の都道府県間格差は緩和された一方,実質所得の全国合計額は減少していたことや,地域間配分政策の効果は短期的な影響にとどまらず長期的にも持続していたことが示唆された.さらに,我が国の総人口が減少する場合,地方圏からの人口流出が加速されることが示唆された.
2020年度
博士論文
本論文は,大規模統計調査を用いた貨物車の広域交通流動のモデリングと政策分析,車種・距離帯を考慮した貨物車経路選択行動の分析とモデリング,時間軸を考慮した貨物車ツアー選択行動の分析とモデリングという三つの視点から,経路非列挙型交通行動モデルに基づいて貨物車交通流動の分析を行ったものであり,都市部における効率的な物流交通政策の検討に寄与する新たな評価・分析の手法を提案するものである.第1章(序論)では,我が国の都市圏において物流交通とりわけ貨物車交通の状況が大きな転換期を迎えているという社会的背景,都市の物流実態を把握するための観測技術の進展状況,より高度な時空間流動モデリングの必要性などについて論じている.その上で,都市内の貨物車交通を広域交通流動,経路選択行動,ツアー選択行動の観点から捉え,貨物車の時空間的な流動パターンをモデル化すると共にその物流政策分析への活用可能性を実証的に分析することを研究目的として掲げている.第2章(既往研究のレビューと本研究の位置付け)では,都市の物流調査や移動軌跡データに関する研究や都市の物流活動のモデリングに関する研究を総合的にレビューしている.その上で,貨物車交通流動を分析する上で特に大きな課題となる経路選択肢列挙に着目し,本研究における貨物車の時空間流動パターンに関する経路非列挙型モデリングの学術的な位置付けを示している.第3章(大規模統計調査を用いた貨物車の広域交通流動のモデリングと政策分析)では,都市圏の大規模ネットワークにおける貨物車流動分析への適用のために,経路非列挙型の重複率最大化モデルを構築し,最新の東京都市圏物資流動調査を用いてモデルのキャリブレーションを行った上で,貨物車の広域交通流動変化について分析を行っている.貨物車の広域交通流動のシミュレーションより,首都圏三環状道路の全線開通によって都市域全体の貨物車交通が円滑化するだけなく一部の住宅地域における通過交通の減少も起こり得ること,重さ指定道路の拡充整備により貨物車交通流動の効率化のみならずCO2排出量削減に対しても一定程度の寄与があることなどを示している.第4章(車種・距離帯を考慮した貨物車経路選択行動の分析とモデリング)では,貨物車プローブデータを用いて,車種や距離帯によって特性が異なる貨物車の経路選択行動を詳細にモデル化している.経路選択肢列挙を行う必要がないRecursive Logitモデルの枠組みのもとで計算効率性の高い尤度関数を新たに構築し,車種や距離帯の特性を反映し大規模ネットワークにも適用可能な経路選択モデルを開発している.貨物車プローブデータを用いてモデルのパラメータ推定を行った上で時間価値や右左折費用を算出し,経路選択行動の車種・距離帯による差異を明らかにしている.さらに,大型貨物車は環状道路の選択確率が高いのに対して小型貨物車は放射道路の選択確率が高いことなど,車種や距離帯によって貨物車の経路選択特性が大きく異なる可能性があることを示している.第5章(時間軸を考慮した貨物車ツアー選択行動の分析とモデリング)では,拠点となる物流施設を貨物車が出発して複数の目的地へ立ち寄り再び元の拠点へ帰還するというツアー単位での貨物車の時空間移動をRecursive Logitモデルを用いて分析している.貨物車プローブデータを用いてモデルのパラメータの推定を行った上で,東京都心部へのロードプライシング施策のシミュレーション分析を行い,都心部に混雑課金が導入された場合に配送スケジュールを変更する貨物車両が増えることや,課金される時間帯の直前に流入交通量が増加する可能性があることを示している.第6章(結論)では,各章の結論を包括的にとりまとめた上で今後の研究課題について論じている.
修士論文
Tourism development as one of the focusing strategies of Japanese government has successfully boosted the economy in recent years. On the other hand, as the tourism prospers, however, it brings much worries in over-tourism problem. The Yaeyama Region as a case of this concern. In order to grasp the patterns of tourists and their characteristics in Yaeyama Region, this paper will discuss about the patterns in mainly two perspectives by using the Wi-Fi data and Bluetooth data. In the first perspective, this paper will show how do visitors using different transportation means tour around at the indexes of time duration period and trip chain pattern. Besides, a brief discussion of differences between Wi-Fi sensing and Bluetooth sensing in the capture result. In the second perspective, this paper will analyze and forecast the variations of visitors’ numbers in each detecting spot by applying a time series analysis method. Based on the conclusions, this paper will contribute in picturing tourists’ patterns and correlation between time and choices of visit places.
近年の観光需要が増加する一方,観光地ではオーバーツーリズムの問題が発生している.日本を代表する観光地,鎌倉も休日の来訪交通による交通渋滞に悩まされており,それらへの対策として,TDM施策の一つである混雑課金政策の導入が検討されている.しかし通勤交通が主となる都市圏に比べ,既存の鉄道やバス路線の容量も十分ではない観光地では,自動車交通からの転換が,他の交通機関にさらなる混雑をもたらすことも考えられる.また,地域内での周遊行動を伴う観光行動では,政策導入に伴う交通需要変化の適切な把握のために,その行動を一日のツアーベースでより詳細にモデル化する必要性がある.そこで本研究では,混雑課金政策導入に伴う観光交通需要変化を適切に把握するため,複数交通手段を選択可能な状況下で,混雑を考慮したアクティビティベースドモデルであるmHAPPを混合整数計画問題の枠組みを拡張して構築した.そしてそのモデルを用いて混雑課金政策の導入や公共交通内での容量を考慮した条件下での観光周遊パターンの変化を予測した.また,観光客の観光満足度の観点から,政策の導入が観光客に与える影響についての評価も同時に行った.分析では6月の紫陽花シーズンの鎌倉を想定し,単純化した鎌倉の交通ネットワークを作成した.また携帯電話基地局データ等を用いて代表的な観光周遊パターンや交通ネットワークに占めるシェアを特定し,これらの周遊パターンを持つ観光客層を分析の対象とした.
近年, Urban Air Mobility(UAM)の開発が世界的に進められている.特に小型電動旅客機を使用した都市部とその外縁部におけるUAM旅客サービスの構想が官民両方で検討され始めている.UAM旅客サービスが実現すれば,私たちの移動時間は大幅に短縮されると考えられるが,サービス運用コストに課題があると考えられる.そこで本研究では,利用者の交通手段選択を考慮したUAM旅客サービス運用に関する数理計画モデルを構築し,サービス運用の黒字収支を確保しつつ利用者側へのサービス導入効果がより大きくなる要因をサービス提供側と利用者側の両面から検討することで,将来のUAM旅客サービス導入に重要となる支配的要因を明らかにした.そして我が国,特に東京を起点とした外縁部への旅客輸送におけるUAMの利用可能性を検討する上での基礎的知見を探った.公共交通網が発達している日本都市部では鉄道を利用する高い移動時間価値を持つ人々がUAMの潜在的利用者であると考えた私たちは,数理計画モデルにおいて,東京都市圏の都市部と郊外を結ぶ鉄道網を考慮した仮想時空間ネットワークを設定し,ノードでの機体の充電や運営収支を含むサービスオペレーションと,利用者の交通手段選択が相互に影響を与えるような整数線形最適化問題を構築した.
大都市圏の鉄道では,慢性的な列車遅延による定時性の低下が問題となっている.その遅延現象は列車の走行・停車時間や天候など,様々な要因が複雑に組み合わさって生じる現象である.それに対し既往研究では,数理モデルやシミュレーションモデルでその解明を試みてきた.しかし,実現象を反映させ,かつ遅延現象の詳細な発生メカニズムを明らかにした研究は少ない.また,遅延要因の一つである天候を考慮した研究も少ない.そこで本研究では,長期間の東京メトロ東西線の秒単位の運行実績データと気象庁データを用いて,都市鉄道における前後の駅・列車の時空間的な関係性を示した確率的グラフィカルモデル(ベイジアンネットワーク(BN))を構築し,現象の発生構造や天候の影響を定量的に分析することを目的とする.モデルの構築前に降雨と列車の遅延秒数との関係を分析した.その結果,降雨日は各駅の発着遅延時分が大きくなる傾向にあり,特に8時台の混雑時間帯で遅延時分が最も大きくなることが分かった.以上を踏まえ,運行実績データからBNモデルを構築した.モデルでは,各列車が各駅を発車・到着するごとにノードを作成し,駅・列車を明示的に扱った遅延現象の分析を行った.また,時間降水量ノードを観測所ごとに作成し,各駅・各時間帯の降水状況を詳細に再現した.このようにして作成したモデルを用い,データを学習し,列車間の関係性を明らかにする「構造学習」,観測値として時間降水量を入力し,遅延秒数を再現する「確率推論」,説明変数の影響力を相互情報量の大きさから把握する「感度分析」を行った.
卒業論文
道路交通分野における新たな情報通信技術であるDSRCは,従来の技術よりも多種多様な情報を取 得することができる.しかし,リアルタイムで収集可能なデータは交通量情報のみであり,既存の固定感知機等からは入手可能な速度や密度の情報は利用できない.そこで本研究では,DSRCから得られる交通量のみを用いて,リアルタイムで冠水等の異常事象を検出する手法を構築した.特に,異常事象の即時検出アルゴリズムと,正確検出アルゴリズムの双方をベイズ深層学習モデルの枠組みで構築した点に特徴がある.関東エリアの道路網を対象とした分析により,提案手法の有用性を検証した.
2019年度
博士論文
本論文は,道路ネットワークのエリア分割手法の実証的比較分析,バイモーダルシステムにおける交通手段・出発時刻同時選択モデルの開発,混雑課金とバス専用レーンのシミュレーションベース同時最適化手法の提案を通じて,都市部における効率的な交通システム構築の検討に寄与する新たな評価・分析手法を提案するものである.第一章(Introduction)では,都市部における自動車渋滞と公共交通混雑の現状を概説した上で,交通需要マネジメントを適切に実施するためには,渋滞のダイナミクスを少ない変数で合理的に記述できる方法であるMacroscopic Fundamental Diagram(MFD)の適用が考えられることを主張している.しかし,MFDの適用に当たり,(1)渋滞パターンに空間的異質性が存在する場合にはMFDがWell-definedとならないこと,(2)二つの異なる交通モードが混在するエリア(バイモーダルシステム)におけるThree-dimensional MFD (3D-MFD)に基づいた交通需要マネジメント手法は未解明であることを指摘している.その上で,(1)に対して,渋滞パターンが同質になるエリア分割手法の実証的比較分析を行うこと,(2)に対して,交通需要マネジメントによるバイモーダルシステムの最適化ための解析並びにシミュレーション手法を開発することを,本論文の目的とすることが述べられている.第二章(Literature Review)では,マクロ交通流理論,エリア分割手法,出発時刻選択モデルに関する研究レビューを行っている.まず,本論文の全章に関わるMFDと3D-MFDの基本的な性質に関して整理した上で,第三章に関わる代表的エリア分割手法であるNormalized Cut(Ncut)及びCommunity Detection(CD)について整理している.そして,第四・五章に関わる出発時刻選択モデルで用いられる渋滞ダイナミクスのモデリング方法を中心にレビューを行っている.第三章(Optimal Network Partitioning for Well-defined MFD)では,Ji and Geroliminis (2014)によるNcutによる道路ネットワークのエリア分割手法と,Ge et al.(2017)で提案されたCDに基づいたエリア分割手法間での比較分析を行っている.東京都心部に面的に設置された感知器から得られた交通量・密度データを用いて実証分析を行い,いずれの手法を用いた場合でも概ねWell-defined MFDをもつ複数のエリアに分割されることを示している.また,例えばCDでは非常に小さいエリアが生成される場合があることなど,各手法の特徴についても実証的に明らかにしている.第四章(Bi-modal Morning Commute for Urban Cities with Road Space Distribution)では,エリア内でのバス専用レーン導入効果などを解析的に分析する枠組として,バイモーダルシステムにおける交通手段・出発時刻同時選択モデルを構築している.モデルでは,3D-MFDを適切に表現した渋滞ダイナミクスとバスの車内混雑コストが明示的に考慮されている.モデルに基づく利用者均衡時の特性を解析的に分析すると共に,数値計算を通じて利用者均衡時の出発時刻選択や渋滞パターンなどの特徴や,均衡費用とバス専用レーンの配置割合の関連性の分析結果などが示されている.第五章(Simulation-based Joint Optimization for Congestion Mitigation in Bi-modal Transportation System)では,混雑課金とバス専用レーンの同時最適化のためのシミュレーション分析手法を提案している.混雑課金とバス専用レーンを同時に制御するルールを開発した上で3D-MFDに基づいてエリア型混雑課金額を決定することや,交通流シミュレーションと人々の行動原理を統合した枠組を構築したことに研究の特徴がある.東京都心部を対象としたケーススタディを通じて,提案する3D-MFDに基づいた混雑課金と道路空間再配分の決定方法の有用性を確認している.第六章(Conclusions and Future Direction)では,本論文の結論をとりまとめた上で,今後の研究課題について延べている.(Traffic congestion is a serious problem in cities. In past decades, the transporta- tion infrastructure has expanded to meet an increased travel demand. As a result, multiple transportation modes are used in most cities. However, building the trans- portation infrastructure is an expensive strategy and increases the travel demand. Moreover, public transportation faces serious body congestion. Thus, an efficient transportation system where multiple modes are available under travel demand man- agement is important to the mitigation of congestion. To understand the mechanism of congestion, models at the microscopic level (i.e., link level) have been used in the literature. However, Daganzo [1998] reported that microscopic modeling might be limited for cities with a highly complicated traffic demand in space and time. The parsimonious model with a few variables can be used to tackle this problem. The macroscopic fundamental diagram (MFD) is one such model. It relates the spatial mean flow to the spatial mean density. The present thesis focuses on the problems (I) that the well-defined MFD cannot be observed if the network is heterogeneous and (II) that although the three-dimensional MFD (3D-MFD) captures the congestion dynamics of a bimodal (e.g., car and bus) transportation system, control strategies that mitigate congestion on the basis of the 3D-MFD have rarely been investigated in the literature. The objectives are thus to conduct a cross comparison of network partitioning methods to find an optimal area having a well-defined MFD using real traffic data and to propose an analytical and simulation-based framework for the optimization of bimodal transportation systems. First, we conduct a cross comparison of spatial partitioning methods to identify the optimal area. The normalized-cut-based approach proposed by Ji and Geroli- minis [2012] and community-detection-based approach proposed by Ge et al. [2016] are compared. We take the Tokyo central business district as a case study using traffic data recorded by an enormous number of detectors. We then investigate the advantages and disadvantages of the two approaches in terms of applicability. Second, we develop a bimodal morning commute for cities, focusing on departure time and transportation mode choices in bimodal transportation systems, to inves- tigate analytically the properties of bimodal systems, such as the area-wide effect of a dedicated bus lane. Our model incorporates the 3D-MFD congestion dynamics and crowding discomfort in buses. Properties of the no-toll equilibrium are inves- tigated and the patterns of the departure rate and congestion and the relationship between the equilibrium cost and the ratio of the dedicated bus lanes are obtained for a numerical example. Third, we propose a simulation-based joint optimization of congestion pricing and dedicated bus lanes for congestion mitigation in bimodal transportation systems. We develop (I) a joint optimization framework of the congestion pricing and dedicated bus lanes, (II) an area-based congestion pricing scheme relying on the 3D-MFD, and (III) a framework that combines a microscopic traffic simulator with the travel behavior of the individual (i.e., departure time and transportation mode choices). We then consider the Tokyo central business district in a case study and show the efficiency of 3D-MFD-based pricing compared with that of single-mode-MFD-based pricing. )
修士論文
The transit-oriented development (TOD) is expected to bring externalities, one of which is indirectly affecting the residential land values within the area. In Tokyo and its suburbs where people are heavily dependent on train networks, some station-area neighborhoods and railway lines operated by different railway companies may have intrinsic values, caused by either the quality and service of each neighborhood and line or other, unobservable traits. In this paper, the effects of TOD characteristics and different railway lines on residential land values are analyzed by utilizing the multiple membership multilevel model. The empirical result emphasizes three things. First, several TOD factors significantly affect residential land value. Second, differences across railway lines are responsible for creating a large share of land value variations. Third, the effects are the largest for the lines serving areas south to west of Tokyo in comparison with other selected railway lines.
高速鉄道などの交通関連インフラ整備の事業評価では,時間短縮便益をはじめとする直接便益を中心に計測・評価を行ってきた.近年,時間短縮便益に加えて,広義の経済効果や便益の考え方が提唱され,この評価を行う実証研究が蓄積されつつあるが十分とは言えない.そこで本研究では,広義の経済効果の一つである各産業の労働人口変化について着目し,高速鉄道の整備によってそれがどのように変化するのかを実証的に明らかにした.市区町村別労働人口のデータを用いて差分の差分析を適用した結果,高速鉄道駅が整備された地方自治体の卸売・小売業の労働人口が2.4%から8.2%増加し,これらの産業の地域特化が起こる可能性があることが示唆された.
センシング技術の発展に伴って多様な交通情報をリアルタイムで収集することが可能となり,それを用いた交通状態短期予測に関する研究が進展しつつある.しかし,観光地を対象とした交通量予測の事例は少なく,オーバーツーリズムの評価等への適用も十分ではない.本研究では,観光地の交通量を高精度予測するために,曜日や季節,天気,イベント情報などの多様な特性を包括的に考慮することが可能な多変量LSTMを用いた学習モデルを構築した.具体的には,鎌倉市中心部を対象に,交通量データ,降水量や社会イベント情報などの複数の入力を学習することで,市内中心部における交通量の60分先予測値を出力した.その結果,繁忙期である6月中旬の交通量予測において,平均絶対誤差率7.03%という比較的高い予測性能を有することが示された.
近年の情報通信技術の発達やテレワーク制度の普及等により,労働者自身が就業場所を選択できるようになってきた.これにより,郊外に大規模サテライトオフィスのような職場環境を設置し,鉄道混雑の激しい都心を避けて通勤する働き方を提供できる可能性や,それに伴う生活の質の向上が期待される.本研究では首都圏鉄道通勤者を対象に,こうした都市政策によって起こり得る人々の生活行動パターンの変化について分析した.具体的には,テレワーク利用意向に関する大規模アンケート調査を実施して列車混雑や通勤時間などの観点から利用意向の程度を明らかにした上で,勤務場所選択を考慮したActivity-based生活行動モデルシステムを構築した.
電気自動車(EV)の普及において,航続距離の短さや充電施設の不足等の充電特性は普及を 促進する上で解決すべき課題であり,充電施設の配置計画においては,利用者(消費者)の戦略 的な行動を考慮した包括的な評価が行われる必要がある.本研究では,複数種類の充電施設が 配置された道路ネットワークにおける EV の経路選択行動(短期的意思決定)と消費者の車種選 択行動(長期的意思決定)の相互依存関係について,数理的な評価モデルを構築した.簡単な数 値計算により構築したモデルの基本的な挙動を確認し,充電施設の不足に対して,ネットワー ク外部性や長期的な EV の需要変動を考慮した,より緻密な評価が可能であることを示した.
卒業論文
ドライバーに不完全な交通情報を提供したときにハンチングという交通量の振動現象が生じることが知られている.Iwase et al.はこれを回避する情報提供方式である自己実現シグナルの概念を提案した.しかし,単純な解析モデルを用いた考察に留まり,人間が実際にシグナルを受けて経路選択した場合の効果は未知である.本研究では,小規模室内実験を実施して自己実現シグナルによるハンチング抑制の現実的妥当性を検証した.簡単な仮想ネットワークにおける室内実験環境を構築し,被験者が集団で経路選択ゲームを行う実験から得たデータを解析し,部分的ながらもシグナルによるハンチング抑制効果があることを確認した.次に,実験データの代表的な経路選択規範を模擬した数値シミュレーション分析を行い,選択行動とシグナル効果の関係性を明らかにした.
本研究では,複数のモビリティサービスを定額料金で利用できるサブスクリプション型MaaSに注目し,交通行動分析の観点からその適切な導入方法〜具体的には,サブスクリプション型MaaSの設定空間範囲とそれに対する利用者の最大許容(定額)料金の関係性を定量的に評価する手法〜を構築した.具体的には,再帰ロジット (RL) モデルを用いたマルチモーダル交通選択モデルを構築し,RLモデルの経路非列挙特性に着目して,RLモデルをサブスクリプション型MaaSの設定エリア内の複数の交通手段を用いたトリップに適用する考え方を提案した.提案した手法の現実的妥当性を検証するため,東京都市圏PT調査を用いてRLモデルのパラメータを推定した上で,特定の地域を対象としてMaaS導入のシミュレーションを実施した.シミュレーション結果より,提案する評価手法により,MaaSの適用される範囲や対象とするODペアの特性に応じて,算出される許容定額料金が適切に変化し得ることが確認された.
2018年度
修士論文
首都圏の都市鉄道では,多くの路線で高頻度運行を行い高需要にできる限り対応している反面,一度遅延が発生すると様々な混雑により慢性的に続いてしまう傾向にある.この種の遅延は日常的に発生するため,列車運行における喫緊の課題と言える.この解決には,列車−乗客間の関係性を考慮した列車遅延現象の適切な把握と各遅延対策の評価を可能とするための定量的分析手法の構築が必要である.そこで本研究では,列車−乗客間の挙動を考慮した流率密度関係(Fundamental Diagram)に関する理論モデルの現実妥当性について,実際の列車運行実績データを用いて検証し,キャリブレーション結果に一定程度の現況再現性があることを確認した.
本研究では,認知の影響を考慮した認知型RLモデルを構築し,東京首都圏を対象とした大規模な経路選択モデルのパラメータ推定を行い,従来型のモデルよりも推定安定性を向上させることを確認した.また,マルコフ型経路選択原理の下での最適混雑課金・システム最適配分について,社会的総余剰最大化を目的関数とした最適化問題を立式することにより,限界課金原理がパスベースの場合と同様に成立することを理論的に示した.その上で実ネットワークでの実証分析を行い,限界課金によるネットワークの向上を確認した.
新幹線・航空等の都市間交通について社会的に最適なネットワーク形状を検討することは重要である.近年,居住地と一都市の間を単純往復する形態のみならず,複数都市を周遊するタイプの都市間旅行者が増加しているが,従来のネットワーク計画モデルでは考慮されていない.本研究では,旅客の周遊行動を考慮した新幹線・航空網の最適ネットワーク計画モデルを混合整数線形計画の枠組で構築した.往復型・周遊型という異なる旅行形態の元での最適ネットワーク形状について感度分析を行った結果,往復型では結ばれなかった地方同士が周遊型では接続される可能性が示唆された.最後に,提案手法を全国幹線交通網に適用しその有用性を確認した.
本研究では,歩行空間の詳細な評価方法の確立を念頭に置き,歩行者の詳細な移動軌跡データを用いることで,局所空間性の把握を可能とする空間パターンの抽出を行った.得られた空間パターンは,実空間の障害物付近などで速度低下を示唆する妥当なものであった.また,大量データへの適用結果を日内・日間で比較し,大域的なパターンの安定性を示した.最後に,それらの統計的有意性と,複数パターン間の統計的な類似性の直感的な混雑・非混雑との整合性とを確認した.
Despite ride-sharing can increase the accessibility of areas with limited transport offer, drivers sharing their rides may not be willing to detour for collecting passengers in areas with low demand, such as rural areas. We analyse the introduction of an economic incentive in an intercity ride-sharing platform to encourage drivers to stop in small towns along their route. By conducting simulation analysis in a synthetic network, our results show that social welfare is maximised when the economic incentive is about 3.3 times the value of travel time when the demand and supply are balanced. However, individual welfare gains were found small. When passengers have a high value of travel time, the incentive had a negative impact on social welfare. Incentive had a negative impact on the income of the platform provider.
卒業論文
完全自動運転を用いた新交通サービスの利用意向を分析することは,近未来のモビリティのあるべき方向性を検討する上で有用である.しかし,一般的に日本人は新技術の利用やシェアリングに心理的に大きな抵抗を持つと言われており,そうした影響を明示的に考慮した分析が必要である.本研究では,自動運転ライドシェアに関する心理的イメージや,将来起こり得る仮想的な利用条件に関する選好意識(Stated Preference: SP)を尋ねるアンケート調査を行い,完全自動運転車を用いたライドシェアシステムの利用意向の規定要因を分析した.分析の結果,利用意向には新商品に対する嗜好性の高さや一般的リスクの回避傾向が影響していること,サービスを利用する際に人々は同性の他人が少しだけ乗っている状況を好むこと等が示唆された.
2017年度
修士論文
世帯におけるライフイベント(転居, 出産等)の発生は,その自動車保有行動に大きな影響を与えると考えられてきた.しかし,従来の多くの研究では一時点のみのクロスセクションデータを用いており,因果関係を厳密に把握することが難しい.本研究では自動車保有・利用に関する長期・大規模パネルデータを用いて,ライフイベントが世帯の自動車保有行動変化に及ぼす影響を明らかにすることを目的とする.基礎集計分析を行った上で,保有状況変化,車種変更,新規車種購入の各モデル,及び,それらを統合したモデルの推定を行った.例えば世帯の同居人数および免許保有者が大きく減少するほど車を手放す行動が生じること等が確認された.
北海道のような広域エリアで,長期に渡る観光周遊行動を把握するにあたり,アンケート調査やプローブパーソン調査の実施はコストやデータの代表性の観点から限界がある.本研究では,長期・広域で交通行動データの収集を効率的に行うことが可能なWi-Fiパケットセンサーにより,道内観光客の周遊データを収集し,その基本特性を把握した上で,観光客の周遊行動モデルを構築した.さらに,モデルによる観光客の周遊行動の現況再現性を確認した上でシミュレーションを実行し,観光客の集中が起きやすいエリアにおける需要分散施策の影響分析を行った.これにより,Wi-Fiパケットセンサーの観光交通調査・周遊行動分析への一定程度の有用性を示した.
現代の首都圏では三環状道路をはじめ交通インフラ整備が進み物流ネットワークも発展する一方で,貨物車と乗用車の混在など検討すべき問題点も存在する.そのための貨物車による行動モデルの構築の重要性は高い.これまでの貨物車の実証分析はトリップ単位で実施されてきた.一方で本来の貨物車の移動パターンはツアー単位で生成すると想定することが自然である.そこで本研究では複数の目的地を訪問するツアーパターンモデルを第5回東京都市圏物資流動調査の結果を用いて構築する.また推定されたモデルを用いて政策シミュレーションを実施することにより従来のトリップベースモデルに代わるツアーベースモデルの有効性が明らかになった.
地方都市における中心市街地の空洞化は喫緊の課題である.その対応策として,都市の効率化を目指した立地適正化計画が計画・実施され始めている.本研究では群馬県都市部を対象に,商業施設の立地・撤退する要因を実証的・包括的に明らかにすることを目的とする.そのために,立地適正化計画のような細かい地域単位での都市計画の実施が与える影響を分析するため,公共交通の要因や空間効果を考慮した1kmメッシュ単位の立地数・撤退数予測モデルを構築した.立地適正化計画のシミュレーションを行った結果,中心市街地では店舗数が増加するものの,都市部全体では減少した.しかし,減少傾向には歯止めがかかることが示唆された.
卒業論文
インバウンド観光客の増加や,私事活動の多様化等が進む中,観光流動を適切に把握することの必要性は以前にも増して高くなっているが,そもそも自由度の大きい観光交通の特徴を効率的かつ適切に捉えることは依然としてチャレンジングな課題である.本研究では,新たな交通行動調査手法であるWi-Fiパケットセンシングを活用して,沖縄本島観光周遊パターンの特徴抽出を試みた.島内数十箇所にセンシング機器を約1ヶ月間設置し,膨大な量の固有IDログデータを収集した.これより,空港あるいはクルーズ船ターミナルより出入りがなされた観光客である蓋然性が高いデータのみを抽出した.その上で,少数の「利用者特性」×「訪問スポット特性」によるクラスタリングが可能な確率的ブロックモ デルの手法を援用し,典型的な観光周遊パターンをデータマイニングにより抽出すると共に,非負値行列分解手法を援用した観光地推奨システムのプロトタイプについて検証した.
高速道路の料金設定は,道路建設費・維持管理費等の採算面に加えて交通需要マネジメントでも重要な役割を担っている.本研究では,2016年4月より施行された新料金施策(首都圏の新たな高速道路料金に関する具体方針)を対象に,料金施策が交通需要に与える影響について因果効果分析を行った.ICペア単位のETC集計交通量に対してエビデンス・レベルがより高いパネル分析を適用したところ,施策前後での料金変化の程度に応じた因果効果の存在が統計的に示唆された.さらに,高速道路需要の料金弾性値(=−需要変化率/料金変化率)の推計を行ったところ,平均的に従来研究と同程度の値(0-0.5)となることが確認された.
2016年度
博士論文
This dissertation concentrates on the problem of inferring origin-destination (OD) travel demand from multiple sources of data. The problem of OD travel demand estimation has been studied extensively in the past several decades, but new issues are still emerging when old issues are not yet fully explored. The gap between state-of-the-art and state-of-the-practice is still evident. This dissertation attempts to mitigate the gap and go beyond previous studies in using new data, building macroscopic dynamic network loading for complex multi-reservoir urban transportation network and developing novel method that incorporates perceived and observed data for estimating path flow. Chapter 3 addresses on the estimating static OD demand. The static OD ma- trices are usually derived from large scale travel survey in practice, whereas ex- isting studies consider multiple data sources for modeling such as traffic counts, probe vehicle and mobile phone data. bring a novel dataset into the forecast model framework. The Congestion Statistics data records the change of the number of dwelling people with different purposes in each mesh at each time horizons. We adopt this dataset for the following reasons: low cost, easy to collect, and privacy-free. This Chapter estimates OD demand in the forecasting framework using an updating approach. Two sequential sub-models based on the maximum entropy principle are employed to calculates trip flows of each OD pair. The first sub-model updates trip production and attraction by a non- linear optimization problem subjected to inflow and outflow, population change and the capacity of each zone. The optima correspond to the most possible trip attractions and productions in each zone. Results of submodel 1 form new constraints for updating trip matrix using a reference generated from historical data. This matrix fitting problem is dealt with by the second submodel.The proposed approach calculates trip flows of each OD pair using two sequential sub-models. Performance of the proposed methodology is validated through a numerical example and confirmed by case study using the data of Tokyo. However, the aggregate mobile phone data is not sufficient for dynamic OD demand estimation (DODE) problem. To track the time-of-day change in travel demand requires finer dataset, i.e., traffic counts. As the inverse problem of dynamic traffic assignment (DTA), the DODE estimates OD matrices by iter- atively solving the OD estimation problem and DTA problem. DTA requires a dynamic network loading (DNL) model to map path flow to path cost and an as- signment model to update path flow based experienced path cost. The classical methods for DODE problem are subject to: 1) the DNL model demands high computational ability, and 2) incorporation of multiple sources of data hasn’t yet been fully explored to improve the estimates of travel demand. Hence, Chapter 4 builds a dynamic network loading model upon the macroscopic characteristics of traffic flow depicted by Macroscopic Fundamental Diagram (MFD). The dy- namic network loading model for multi-reservoir system (MRDNL) is specified in terms of a system of partial differential equations following the conservation law, while the flows at the boundaries between reservoirs are determined by balancing the supply and demand between upstream and downstream reservoirs. Spatial discretization method and numerical scheme are also developed for vehicles’ be- havior guided by this model. The numerical method is based on the Godunov scheme to track the movement of vehicles in the network while maintaining the relevant priority rules. In comparison with previous studies, the proposed nu- merical scheme is computationally efficient, considers non-uniform cell sizes in different internal paths of a reservoir, and conserves the flow through a holding and balancing rule. A comparison with results predicted by Cell Transmission Model (CTM) shows that the new model correctly represents the traffic dynam- ics in reservoirs. Nevertheless, to divide a urban network into reservoirs is a prerequisite for enforcing the MR-DNL model. To identifying reservoirs in large network more efficiently without using the demand data, Chapter 5 presents a community detection method that yields neighborhoods in which the links are closely related and share similar traffic characteristics. The topology of network and similarity of connecting links are considered to maximize the modularity of the network. I have tested proposed method on an open data of Berlin us- ing agent-based traffic simulator. Results show that this method can identify neighborhoods in an effective and efficient way. Chapter 6 emphasizes on developing a methodology framework for estimating dynamic OD demand using traffic counts with incorporation of observed path cost. This chapter presents the primal model and a relaxed form for estimating dynamic path flow, from which the OD demand can be easily generated. This dynamic path flow estimator (DPFE) is carried over to a variational inequalities (VI) formulation accounting for the dynamic user equilibrium (DUE) principle. Implementation issues and future works are discussed in Chapter 7.
修士論文
The railway share accounts for nearly 50 percentage of the transportation in Tokyo metropolitan area, which is much more higher than the other metropolises in the world. Therefore it is meaningful to research for the Tokyo rail passengers behavior. Most of the activity-based research were for work purpose, but the discretionary activities destination choice are more and more coming into notice recently. This thesis studies modeling the two discretionary activities purpose: shopping and eat out side or social. Constraint choice set by using ellipse method were created based on the GIS information of home and work places for each individual, and then the destination choice models were estimated. The small-sized zone attractiveness and combined with social characteristics estimation results are obtained, especially the destination preference for female and parents with small kids .
本研究では,エリアレベルの旅行時間信頼性の評価方法について検討を行った.まず,Edieによるエリアの交通状態に関する一般的定義に従い,エリアレベルでの旅行時間信頼性の評価指標について提案を行った.また,この手法はエリアワイドでの旅行時間信頼性評価を行う上で必要となる,広域かつ長期的なデータを扱うために,計算コスト,作業コストの少ない手法である.提案した評価指標を実際のデータに適用し,関東エリアの6つの行政区域を対象にケーススタディを行い,エリアの道路整備状況と時間信頼性には特別な関係は存在しないことが示唆された.さらに,旅行時間信頼性向上に貢献すると考えられる流入制御問題について検討した.具体的は,Macroscipic Fundamental Diagram の不確実性をモデル内で明示的に考慮することで,制御後の交通状態がより安定する制御方法を開発し,提案した制御方法の有用性に関して,数値シミュレーションを行い確認した.
経済発展の中核をなす都市域では,効率的で持続可能なモビリティが必要であり,マルチモーダルなシステム構築は,必要不可欠である.バス専用レーン導入は1つの有用な策であり,様々な都市で導入の検討がなされている.しかし,バス専用レーンの導入の際には,配置場所,配置量に応じたパフォーマンスを評価する必要がある.本研究では,その配置場所と配置量の手法を提案し,Macroscopic Fundamental Diagram (MFD)によって整備実施時のネットワーク評価を行った.MFDの利用によって,従来のような道路区間などのミクロな評価や静的な道路ネットワーク評価ではなく,面的かつ動学的に道路ネットワークを評価することが可能となった.
卒業論文
鉄道プロジェクトの社会経済的影響を定量的に分析・評価するためには,圏域全体における鉄道利用者の交通行動を記述可能な交通需要予測モデルの構築が必須である.特に,鉄道経路選択モデルとそれを用いた乗客流の経路配分は予測システムの核であり,2016年に策定された交通政策審議会答申第198号においてもさらなる精緻化がなされたモデルシステムが適用されている.本研究では,首都圏鉄道ネットワークにおける乗客経路配分に関して,今後の新たな展開の可能性を念頭に置いてモデルの精緻化を行う.具体的には,経路重複を考慮可能でありながらより計算効率性の高いC-logit型の経路選択モデルについて,特に混雑不効用に着目し,パラメータの更新を行った.また,その結果を用いて,車内混雑の影響を考慮した乗客流配分を行った.
都市・地域間の旅客流動を把握するために行われてきた全国幹線旅客純流動調査では,旅行者の質的(旅行目的等)特性が捉えられる反面,5年に1度,秋の特定平休日にしか行われない調査であるため,季節変動を捉えることができなかった.他方,集計された携帯電話位置情報が汎用化し,24時間365日での流動把握が可能になりつつあるが,旅行目的等の質的情報は分からない.そこで本研究では,両データを融合して,多時点に渡る旅行目的別都市間流動表を推計する方法を構築した.推計結果と別調査(旅行・観光消費動向調査)から得られた年間旅行目的構成比を比較し,概ね一致していることを確認した.
2015年度
博士論文
Traffic congestion is a widespread social problem and needs to be alleviated by sophisticated management and investment. The technological advances in monitoring traffic conditions allow the stochastic features of travel time to be better captured, which leads to many new schemes on managing the risk of travel time and thus potentially large benefits to users of transport system. The guideline of cost-benefit analysis worldwide needs to be modified into one that accounts for the benefits of emerging reliability-improving schemes. This dissertation is dedicated to the theoretical framework in including travel time variability (unreliability) into cost-benefit analysis, with a particular focus on the monetary value attached to the improvement of travel time reliability. This thesis can be divided into two parts: (1) understanding traveler’s decision when facing variable travel time and (2) modeling transport system with variable supply. The first part, including Chapter 3, is particularly concerned with estimation of the cost of travel time variability given traveler’s utility-maximizing behavior. It analyzes how systematic perception errors in travel time distribution might bias the estimates and undermine the theoretical equivalence between the structural model and reduced-form model. Empirical estimation on these biases is carried out using stated preference data. The second part, including Chapter 4 and Chapter 5, is concerned with the system (social) cost when travelers are constantly searching for lower travel cost while the transport system are constantly facing random shocks. Taking travel time variability as given, Chapter 4 uses a stylized departure-time equilibrium approach to study how system cost of a traffic bottleneck varies with travel time variability when congestion profile depends on traveler’s collective behavior. It discusses how the conventional definition of value of travel time variability can be modified and fitted in the existing framework of cost-benefit analysis for transport investment to capture the effects of endogenized congestion. On contrary, Chapter 5 challenges the assumption of stable equilibrium by showing that the system might not have a stable equilibrium in some case and travel time variability is also a phenomena of traveler’s day-to-day behavior adjustment. It uses simulation to investigate how much travelers’ day-to-day departure time adjustment contributes to the travel time variability and the time-average travel cost in a long run. In summary, the two parallel parts deal with the valuation of travel time variability from different angles, contributing new insights on using reliability as an indicator for transport user’s benefit.
修士論文
首都圏の都市鉄道需要予測の実務で用いられてきた四段階推定法は,生活様式が多様化した都市圏における需要予測手法としての限界があり,個人の生活行動をより反映した政策シミュレーションが求められている.本研究では,鉄道利用者の生活行動を把握するために,交通行動を生活行動の一環と位置づけて記述できるABMの構築を行う.鉄道利用者がどこで何をするのか,その活動場所までどのようにいくのかという活動そのものに着目し,アクティビティパターン,時間帯,目的地,経路,アクセスモードによって個人の1日の生活行動を表す.パーソントリップ調査に基づいてモデルを推定し,一定程度の現況再現性があることが確認された.
首都圏鉄道では,朝の混雑時間帯における本数増発や相互直通運転等の施策で利便性が向上する反面,慢性的な列車遅延現象が生じ,定時性が低下している.列車遅延のシミュレーション研究等は行なわれているが,遅延現象の確率的特性を調べた研究は見られない.本研究では長期間(約2年)の東京メトロ東西線の秒単位の車両運行実績データを用いて,都市鉄道における前後の駅・前後の列車における時空間的な相関性を考慮した列車遅延現象の確率モデルを構築し,都市鉄道における遅延現象の確率的特性を明らかにすることを目的とする.これにより,駅間走行・駅停車等の要素別に遅延の生じやすさ等を評価することが可能となった.
卒業論文
現代社会において物流は人々の生活に不可欠な要素の一つである.首都圏において三環状道路をはじめとした交通インフラの整備が昨今進んでおり,物流施設の立地状況にも変化が見られる.本研究では神奈川県を対象に,東京都市圏物資流動調査の結果を用いて物流施設の立地先・立地量の決定行動のモデル化を行った.立地選択モデルに関する研究は従来にも行われているが,本研究では各3次メッシュ(約1km四方)を対象にして立地先と立地量(施設の敷地面積)の選択行動を記述する離散-連続モデルを構築し,空間相関を考慮するなど,より妥当なモデルの構築を指向した.モデルの推定結果より周辺道路の利便性や用途地域指定が立地行動に有意な影響を与えていることが明らかになった.
東京の鉄道ネットワークは複数の事業者から構成されている.ある目的地に行く場合,複数の事業者を乗り継ぐ経路が存在するが,運賃は事業者毎に加算されるため利用者に割高感を与えている.そのため,利用者は運賃が安いという理由で所要時間や乗換回数が最適ではない経路を選ぶという「選択の歪み」が発生している可能性がある.本研究では,この事業者別の運賃制度が利用者の選択行動に及ぼす影響を明らかにし,利用者の選択に及ぼす影響を包括的に考慮できる鉄道利用者の経路選択モデルを構築した.その上で,選択の歪みの解消方策として考えられる運賃共通化の導入効果をシミュレーションした.
2014年度
修士論文
本研究では,東南アジア中規模都市における次世代公共交通への転換可能性の検証を目的として,対象都市の大学生を対象に選好意識調査を含む交通行動調査を実施し,そのデータを用いて行動変容意向の分析を行った.通学交通手段選択に関するLatent Class Choice-Logitモデルによる非集計分析より,回答者が主に料金-遅れ時間重視派,所要時間-アクセス時間重視派に分かれ,転換可能性が高いのは所要時間重視派であり,収入が高い,徒歩通学者などの特性を持つという示唆が得られた.また,放課後の活動選択に関するRank Logitモデルによる非集計分析より,普段の余暇活動内容により余暇時間価値に有意な差が生じることなどが明らかになった.
ドライバーにとって旅行時間の信頼性は大きな関心事であり,特に遅刻リスクを嫌う利用者にとっては到着時刻の不確実性が道路利用の満足度を低下させる.この問題の緩和策の一つとして,旅行時間の不確実性の下で最短となり得る経路を推奨するHyperpathに基づく遅刻リスク回避型経路誘導が挙げられる.本研究では,実道路ネットワーク上で適応可能な遅刻リスク回避型経路誘導システムの構築を行った.また,走行実験を通じて,本経路誘導システムの旅行時間信頼性に対する効果を検証した.その結果,通常の最短経路探索に基づく経路誘導と比較して旅行時間のばらつきを抑制させる効果,特に大きな遅れ時間を有意に低下させる効果があることが示唆された.
本研究では,Hyperpath概念に基づく遅刻リスク回避型経路選択(HP)に従うドライバーが徐々に増えていく近未来の道路交通を念頭に,HPの普及がネットワークフローに及ぼす影響を評価する.交通流シミュレーションに基づきて,まず,交通条件(交通量,ネットワークサイズ,HPカーナビ普及率など)を変化させたときにネットワーク全体のパフォーマンス(平均旅行時間,旅行時間変動)がどのように変化するかについての基本特性を,仮想ネットワークを用いて明らかにした.次に,首都圏の実道路ネットワークを対象に,HP導入がネットワークフローへ与える影響を試算した.
卒業論文
交通量や旅行時間がどのような要因によって時間的に変動するのかを明らかにすることは,道路の効率的な運用の観点のみならず,旅行時間信頼性等を考慮した事業評価の場面等においても有用である.本研究では,高速道路における月単位および日単位での交通量の長期時系列データを用いて,交通量の変動成分(トレンド変動,季節・曜日変動,政策的変動等)を包括的に推定する.日本の都市内・都市間高速道路(阪神高速,首都高速,NEXCO三社)の交通量データに一般状態空間モデルの特殊系の一つである構造型時系列モデルを適用することにより,各変動成分の抽出を行うと共に,特に,高速道路料金政策(休日1000円割引,対距離課金等)による介入効果を推定した.
2013年度
修士論文
電力自由化は競争を激化させるため技術革新が生まれやすいといった経済効率性の利点があ り,電力自由化を望む主張は強い.しかし,全面自由化した米国等では,自由化したがためにネットワークが脆弱になってしまったとの指摘もある.本研究では,従来の一部垂直統合型の日本の電力供給ネットワークと,自由化後の市場に委ねた電力供給ネットワークの 2 つのネットワークをネットワーク均衡モデルを用いてモデル化した上で脆弱性を評価し,比較した.結果,平常時には資源の最適配分が行われるため自由化後を仮定している後者のネットワークがより効率的であることがわかったが,一つの施設への依存度を示す Importance Value の値が高くなり,電力自由化後はネットワークがより脆弱になる可能性を持つことが定量的に示唆された.
近年,自然災害による経済的な被害は増加傾向にあり,国レベルのマクロ経済の成長にも大きな影響を与える可能性が指摘されている.本研究では,まず,国単位の時系列マクロ経済データを用いた計量経済学的な実証分析により,自然災害が経済成長率に及ぼす影響の統計的な検証を行った.その結果,自然災害は国全体のGDP成長率に有意な影響が確認できなかったが,農業部門では有意に負,工業とサービス部門においては有意に正の影響が確認された.次に,確率的動学的一般均衡モデルを構築し,経済成長に対する自然災害の影響を構造的に把握した.シミュレーションの結果,災害に伴う技術革新の効果は社会厚生と生産量では異なることが示唆された.
Given the limitations of new urban railway construction in Tokyo metropolitan area, the time-varying fare policy is expected to be the most effective measure to spread the concentrated peak demand. This paper firstly serves as an empirical study of the theoretical time-varying marginal utility model introduced by Vickrey (1973) with the data of urban rail commuters in Tokyo. Secondly, the departure-time-choice model under deterministic user equilibrium is extended by integrating with the empirically identified time-varying marginal utility model. The outputs of the equilibrium model are compared with the one with the traditional constant marginal utility model and we find that the former outputs would be more suitable for the commuting pattern with longer travel distance like the case in Tokyo. The equilibrium scheduling pattern and the first-best pricing strategy are examined, which demonstrates the time-varying marginal utility model can capture the marginal external cost more precisely for the travellers with relatively flexible arrival time.
本研究では,羽田と成田という複数の国際空港を有する首都圏を対象に,2010年の羽田国際化後の国際航空旅客動態調査を用い,航空旅客の空港-アクセス手段同時選択行動の分析を行った.集計分析より,フライト頻度,居住地や年収によって空港–手段選択行動が規定されることが示された.次にNested Logitモデルを用いた非集計分析より,航空運賃,フライト頻度,アクセス時間/フライト時間が選択行動における主要な要因であることが明らかになり,フライト距離帯によってアクセス時間の感度が異なることが確認された.また,アクセス時間の不確実性が負の効用を及ぼすことも示された.最後に,成田空港行鉄道のアクセス時間短縮による各交通機関分担率の弾力性を算出し,モード間での需要の転換に比べて空港間での需要の転換が生じにくいことが示された.
卒業論文
高密な鉄道ネットワークにおける旅客の経路選択行動の記述に用いられてきた多項プロビットモデルでは,モデルに含まれる多変量正規分布の積分計算を陽に解くことができないため,モンテカルロ法に基づく近似計算が主に適用されてきた.一方鉄道需要予測の実務においては,より細密な旅客需要配分が必要とされており,精度要件を満足した上での計算速度向上が求められている.本研究は,4種類の解析的積分近似計算手法をプロビットモデルに適用し,数値解析を通じて各手法の特徴を明らかにした.また,首都圏鉄道ネットワークの旅客配分計算への適用を行い,精度並びに計算効率について従来手法との比較を行った.以上を通じて,解析的積分近似手法の一定の有用性を明らかにした.
ホームドアには人身事故を防止する効果があるが,設置により,列車の駅停車時間の増加につながるため,利用者の効用が低下する可能性がある.しかし,ホームドアが列車のドアと同時に閉まり始め,列車のドアが閉まる直前の駆け込み乗車を防げると仮定すると,ホームドア設置で列車の運行ダイヤの信頼性が向上することも一つの仮説として考えられる.本研究では数理モデルに基づきホームドア設置が単一路線における列車の定時運行性に影響を与えるのかについて基礎的考察を行う.シミュレーションを通じて比較したところ,ドア設置により列車遅延量は増加するものの,利用者が分散して列車選択を行うことにより,利用者の移動の不効用は必ずしも有意に大きくならない可能性があることが示唆された.
2012年度
博士論文
我が国の首都圏をはじめとする都市鉄道の混雑問題は,解決すべき交通政策課題の1つである.本研究の目的は,混雑状況下における鉄道ネットワークおよび駅構内の旅客行動を記述する定量的分析手法の開発である.まず,ネットワーク上の旅客行動を記述するために,列車内混雑と線路内混雑による遅れを考慮した頻度ベースの経路配分モデルを開発した.その上で,大規模ネットワークへの適用を前提に,並列処理を導入した高速経路配分計算システムの実装を行った.次に,駅内混雑を記述するために,逐次的な目的地選択を内生化した歩行挙動モデルを構築し,マイクロシミュレーションシステムの実装を行った.その際,モデル推定に必須となる歩行者挙動データを効率的に獲得するために,画像解析技術を援用した挙動データ取得システムを開発した.(Congestion problems of urban railway, including the Tokyo metropolitan area in Japan is one of the transportation policy issues that need to be resolved. The purpose of this study is to develop a quantitative analysis method to describe the behavior of the passenger rail network and stations under congestion. First, in order to describe the behavior of passengers on the network, I have developed a frequency-based route allocation model that takes into account the delay due to congestion and congestion in the train line. On top of that, we have carried out the implementation of the distributed computing system to assume the fast path network application to large-scale parallel processing was introduced. Next, to describe the congestion in the station, to build a model with endogenous walking behavior selection sequential destination, we have carried out the implementation of the micro-simulation system. At that time, in order to acquire data efficiently pedestrian behavior is essential to estimate the model, we have developed a data acquisition system behaves incorporated image analysis techniques.)
This research has studied the theoretical model and algorithms for hyperpath routing under travel time uncertainty. Many efforts have been made on static hyperpath generation with historical data while the real-time route guidance has not been studies. The idea of hyperpath which originates from the field of frequency-based transit assignment has provided a novel and promising way of routing by recommending a prior potentially optimal link set instead of a specific route, which implies an adaptive routing strategy. Consequently this research focuses on hyperpath-based route guidance and several related issues have been studied. First of all, based on an earlier study on using hyperpath for route guidance, the theoretical model of risk-averse routing with uncertain travel times is formulated. The proposed model reduces to the conventional shortest path model when the network is certain. Furthermore, the relation between the risk-averse routing model and hyperpath model is built with several mathematical transitions. The performances of these algorithms including the existing ones are tested with networks of different topologies, sizes and delay levels. One of algorithm variants, namely SFdi algorithm, is recommended for solving hyperpath generation on real road networks. After the algorithm is conceived of, on purpose of continuing other related studies, GIS software tools are developed with the support of open sources. Two tools, namely GeoRotuing.Net and PyGeoRouting based on different framework are introduced after an introduction of technical issues about route planning with the help of GIS tools. The hyperpath model proposed in based on risk aversion results in a risk-averse potentially optimal link set. The addition of risk-aversion causes the fact that conventional shortest paths may get excepted from the hyperpath. This leads to a different consideration of the hyperpath without any risk-averse assumption, namely potentially optimal hyperpath (PO). The PO hyperpath may incur risk since risk-aversion is not considered in PO hyperpath generation and regret minimization is considered to avoid risky routing. Several prior routes are evaluated by Monte Carlo simulation and one of proposed regret-based routing turns out to be better or at least no worse than others. As an alternative method of adaptive routing, hyperpath is proposed as a prior risk-averse potentially optimal link set and the guidance should be based on real-time traffic data. Considering the fact that such real-time may not always available, a complementary method which recommends several a prior routes is also proposed. The route recommendation is based on reliability index and dissimilarity index. When real-time traffic data are unavailable, travelers can still rely on these a prior routes.
修士論文
一極集中型のような国土構造の巨大災害に対する脆弱性は常々指摘されてきた.本研究では,空間的・時間的に災害の影響が広く波及してしまう状態を災害脆弱性が高い状態と見立てて,複数の地域から構成される国家全体の災害脆弱性を小さくするためにはどのような人口分布の国土構造が望ましいかについての基礎的な経済モデル分析を行った.より具体的には,投資の調整費用や社会資本の影響を考慮した確率的な多地域動学マクロ経済モデルを構築し,災害脆弱性指標に基づいて国土構造を評価する枠組みを構築した.数値シミュレーションの結果より,より望ましい国土構造は,社会厚生最大化の観点と国家全体の災害脆弱性の最小化の観点とからでは異なる可能性があることなどが示唆された.
本研究では,Hyperpath概念に基づくリスク回避型経路誘導が交通流に与える影響について,シミュレーション手法による動的経路配分を行うことで分析した.不確実なネットワークにおいては,潜在的最短時間経路は複数となる場合がある.Hyperpathでは統計情報から得られる各リンクの最大遅れ時間情報を利用し,潜在的最短時間経路群を形成する.混雑の程度やリスク回避型経路誘導の混入率の変化が,ネットワーク交通流に与える影響について比較したところ,特に混雑が激しい状況において,リスク回避型経路誘導に従う車両の割合が増加するに従って平均旅行時間の減少が見られた.一方混雑が少ない状況では,リスク回避型経路誘導の性質上,最短経路誘導との有意な差異は見られなかった.また,最短時間経路に従う車両の平均旅行時間は激しい日変動を持つのに対し,リスク回避型経路誘導に従う車両の平均旅行時間は日変動が小さいことも示唆された.
This paper proposes a nonparametric estimator with monotonic constraints, and applies it to binary choice model with parameters lying on willingness-to-pay space. With simulated data we validate that the constrained estimator has better property when estimating c.d.f.. Subsequently a case study using stated preference data is carried out for obtaining the VTT distribution for Japanese car users. We find that 1) a relatively big gap between constrained and unconstrained VTT estimates exists 2) the unconditional VTT is likely to be Johnson’s S B distributed and 3) the mean VTT in Japan is about 9.51 JPY/min.
The necessity for high-density sensor installations and redundancy of sensor information in traffic state estimation is of concern to researchers and practitioners. The influence of different sensor locations on the accuracy of traffic state estimation using a velocity-based cell transmission model and state estimation with an Ensemble Kalman Filter was studied and tested on a segment of the Tokyo Metropolitan Highway during rush hours. It showed the estimated velocity changes significantly when the interval is extended from 200 m to about 400 m, but is acceptable at about 300 m. Sensor locations are critical when reducing sensor numbers.
卒業論文
本研究では,世帯における車種(軽自動車・乗用車)別の複数保有行動,ならびにそれらの自動車の利用行動(走行距離)を記述可能な動的離散-連続モデルを構築し,近年我が国で継続的に行われている世帯の自動車保有と利用に関するパネルデータを適用することで,世帯における自動車保有-利用の構造的な関係とそれらの規定要因に関しての実証分析を行った.ベイズ推定によってモデルパラメータを推定した結果,女性免許保有者が多い世帯や低収入な世帯であるほど乗用車よりも軽自動車の保有傾向が強くなること等が示された.また,保有,利用それぞれの行動における異時点間での状態依存関係が確認された一方で,保有と利用の行動の間には明確な関連性は確認されなかった.
本研究では,特に都市構造が個人の公共交通利用に及ぼす影響に着目して,都市構造と個人の交通行動との関係性についての実証分析を行った.具体的には,平成22年全国都市交通特性調査の個票データを用いて,公共交通の利用傾向およびそれらと自動車の利用割合に都市特性および個人属性がどのように影響するかを把握するための実証分析を行った.ロジスティック回帰モデルから,都市化度,市街化度,公共交通利便性などが,自動車利用あるいは公共交通利用に有意な影響を及ぼすことが確認された.
2011年度
卒業論文
本研究では,旅行時間信頼性指標の予測に関して,既存モデルの改善と新たなモデル構築という2つの視点から分析を行った.大量のETCデータを用いた分析の結果,旅行時間信頼性に影響を及ぼす要因,また影響を及ぼさない要因を概ね明らかにすることができた.次に,隣接リンク間での旅行時間信頼性指標の統合の可能性について,旅行時間共分散の値に関する検討を行った.旅行時間共分散を推定するのに十分有意な予測モデルを構築することはできなかったものの,旅行時間共分散を推計するための定性的な傾向が,連続する上下流の交通量の大小関係に存在している可能性があることを明らかにした.
本研究では,首都圏鉄道ネットワークを対象に,計画停電に伴う鉄道事業者への節電要請が鉄道利用者の利便性に及ぼした影響のモデル分析を行った.具体的にはSpiess and Florian (1989) の最小費用Hyperpath アプローチに基づいて,利用者の経路選択行動を表現し,一般化費用がどのように変化していったのかを視覚化した.Hyperpathすなわち経路群の計画停電前後での変化に着目することにより,普段は利用されない迂回経路の利用も考慮した上で一般化費用を算出している点で,実際の利用者行動により即した試算を行うことができた.
2010年度
修士論文
現在,全国の至る所で地域の活力の低下が深刻な問題となっている.具体的には,モータリゼーションの進展や消費者のライフスタイルの変化に伴い,中心市街地の空洞化や商業機能の低下が深刻化しつつある.特に,地方部に目を転ずれば,多くの過疎地域において,労働人口の流出が深刻化の一途を辿り,地域の存続が危ぶまれている.これまでも地域活性化のために様々な市場原理による取り組みが推進されてきた.しかしながら,こうした取り組みに伴う弊害については,これまでのところ実証的な検討が十分になされていない.本研究では,ハーシュマンの理論に基づいて,地域コミュニティにおける「離脱」と「発言」の関係についての仮説を措定し,離脱手段の増大が発言手段に及ぼす影響について実証的に検討することを目的とした.措定された仮説の実証的検証を目的とし,目黒区商店街連合会に所属する商店主を対象にアンケート調査を実施した.仮説検定の結果,,商店街から離脱している人は発言をしない傾向があること,自分の所属する商店街から離脱している人は短期的な発言と私的な発言をする可能性があること,商店街に対する忠誠が高い人は商店街から離脱しない傾向と商店街のための発言をする傾向にあることなどが示された.
産業や日常生活において不可欠な役割を果たしてきた自動車であるが,地球環境問題やガソリン価格の変動,公共交通機関の利便性の向上など,自動車を取り巻く状況は大きく変化している.特に自動車による二酸化炭素の排出は運輸部門全体の約9割を占め,自動車由来のCO2排出量削減は急務の課題である.こういった状況を踏まえ,自動車メーカー各社は燃費改善等の技術革新に取り組んでおり,政府はエコカー減税等の政策により環境に配慮した自動車の促進を図ってきた.技術,政策両面からの対策は自動車によるCO2排出量削減に一見効果的であるように見えるが,近年,こういった対策が逆に自動車の利用を促し,結果としてCO2排出量の増加に繋がるのではないかという議論がなされている.本研究では燃費の改善や環境対応車普及促進政策に着目し,それらが地域の自動車交通量にどのような影響を与えてきたか,長期時系列パネルデータによって分析した.また,前述の要因以外にもガソリン価格の変動や道路混雑,鉄道との分担等が与える影響についても検討した.
我が国の貨物輸送の大半はトラック輸送が占めており,二酸化炭素排出量も大きな割合を占めている.また,近年の経済活動の多様化により,物流サービスの向上が期待されている.特に,時間指定配送のニーズは必要最低限のサービスとして定着している.そのため,物流業者は時間を正確に把握し,配送ルートを選定しなければならない.しかし,旅行時間は様々な要因によって,常に変動する.そのため,物流事業者は旅行時間の不確実性を考慮して,配送ルート選択を行わなければならない.本研究は,トラックプローブデータを用いて,旅行時間変動と実際の経路選択行動との関連性を把握する.その上で,トラックプローブデータを統合的モデルに適用することで,旅行時間信頼性価値を推計し,その推計値の費用便益分析への導入可能性について検討した.
都市鉄道では複数の路線間で相互直通運転が行われ,乗客の乗換の解消やターミナルの混雑緩和などに大きな役割を果たしてきた.しかし,車内混雑や高頻度運転によって遅延が常態化し,直通運転によって遅延が広範囲に伝播してしまうという弊害も発生している.本研究では,仮想的な鉄道路線を対象に,相互直通運転の有無による列車遅延の伝播の違いと,それに伴う旅客行動の変化を評価する数理モデルを構築することを目的とする.また,乗客数や路線長を変化させ,どのような条件のときに相互直通運転が望ましいかを明らかにし,その場合の最適な直通列車の頻度や運転区間に関する理論的考察を行った.
卒業論文
バングラデシュ国の首都ダッカは,その都市圏 (Dhaka Metropolitan Area: DMA) に全国総人口の7.5%に当たる1,070 万人の人口を有するメガシティであり,人口密度が著しく高いことで知られている.現在,DMA の都市交通は,バス交通を中心とした道路交通に大きく依存しており,深刻な交通渋滞,交通混乱と,それに伴う大気汚染等の交通公害や健康被害の問題が生じている.現在,2025 年を目標年次としたダッカ都市圏の都市開発基本構想を策定することを目的として,ダッカ都市交通網整備事業準備調査(DHUTS)が進められており,パーソントリップ調査,交通量調査,軌道系交通導入に対する選好意識調査等が実施されている.本研究では,2009 年に行われたDHUTS による交通調査を用いて,トリップ距離帯別・所得階層別の非集計交通手段選択モデルを構築・推計し,DMA における交通手段選択行動を分析した.
本研究の目的は,歩行者流動の把握を念頭に置いた歩行者挙動モデルの構築である.歩行者挙動の研究は数多く行われているが,いくつかの課題が残されている.まず,実データの裏付けがないことが多い.これに対し,本研究では駅構内における実際の歩行者流動のデータを取得し,それに基づいてモデルパラメータの同定を行う.次に,歩行者の目的地選択の考慮が難しいという問題がある.本研究では,Plan-Action Model という新たな行動モデルを用いて,歩行者の動的な目的地選択と経路選択を同時にモデル化する.実証分析においては,通勤時間帯における混雑がみられる駅改札付近の空間を対象とし,歩行者の改札選択を目的地選択と見立て,経路選択と統合したモデルを構築した.最後に,構築したモデルに基づいた簡易な歩行者挙動シミュレータを開発した.
本研究では,ETC 導入が料金弾力性に影響を及ぼしたかどうかを検証する.分析の基本方針は,交通量を被説明変数とする重回帰方程式によるマクロ計量経済分析である.実証分析の結果より,ETC 割引によって利用台数が増加していること,早朝夜間割引など100km 以内に対して適応される割引制度に反応して,短距離トリップが増加している可能性があること.ETC 導入により料金弾力性が小さくなる,すなわちキャッシュレス化の影響が生じていること,主要路線では料金弾力性が小さく,短距離路線では料金弾力性が大きくなる傾向があること,短距離トリップは価格変化に反応しやすい可能性があることなどが示唆された.
2009年度
博士論文
Information and Communication Technology (ICT) has the potential to induce or reduce physical travel. And recently, the impact of social dimension on activity-travel has just gained considerable attention in the realm of transportation planning. This study explores the potential effects of both information and communication technology and social dimension on travel behavior in the following aspects. (1) The effects of mobile phone and telecommuting as ICT are analyzed to investigate Londoner’s travel behavior by focusing mainly on trip frequency, number of tours and tour complexity. The results of our descriptive and multivariate regression analysis imply that mobile phone possession significantly and positively affects total trips made though not necessarily tour complexity. The study provides good evidence that mobile phone possession is clearly associated to total tours made. Though telecommuting does decrease work trips, other trips like shopping or leisure trips are likely to increase. (2) The effects of social dimension such as social interaction, social activities, social network and time planning on travel behavior are examined through the case study in Metro Manila, Philippines. Initially, the effects of socialization on travel are investigated with focus on university students’ activity-travel behavior as influenced by the level and form of their socializing practices. It is hypothesized that socialization would greatly affect the number of side-trips students took while returning home after class. The results may imply that socialization provides sound motivation for trip generation and might be prospect for consideration in the future development of transportation planning processes especially in the developing countries. (3) In addition, the effects of social dimension on travel are examined in the context of university workers in Metro Manila. Social dimension includes social interaction, social activities and social network. The estimation results indicate that there exists a positive and significant effect of social interaction on social network and social activities. Social interaction also has an indirect positive and significant effect to social activities via social network. These findings imply that social factors play an essential role in the study of travel behavior in developing countries. Similarly, the effects of ICT use on time planning, social activity participation, social network on travel behavior are further investigated.
修士論文
近年,道路事業の評価において,旅行時間減少・交通事故減少・交通費用減少という代表的3便益に加え,渋滞などにより旅行時間変動が大きくなって不確実性が増大することの不便益を考慮する必要性が指摘されている.この変動する旅行時間を扱う概念が旅行時間信頼性である.本研究では,我が国における旅行時間信頼性向上の経済便益計測手法の確立に資することを目指して,ドライバーのスケジューリングモデルと平均-分散モデルを統合した新たなモデルによる所要時間信頼性価値の推計を試みた.WEBによる選好意識調査(Stated Preference 調査)から得られた選択データを用いて行動モデルを推計し,既往の研究と同程度の信頼性比が得られたことを確認した.さらに,個人属性別に見た時間信頼性価値の傾向についても考察を行った.
社会的ジレンマの観点からこれまでの放置駐輪対策を捉えると,撤去・罰金の強化等を中心とする構造的方略による取り組みが主に進められてきた一方,心理的方略による取り組みについては十分に検討されてこなかった.この様な背景の下,本研究では,まず,これまで幾つかの知見が蓄積されてきたコミュニケーションによる放置駐輪削減施策の効果について,鉄道駅と大学構内を対象に追試的に検証を行った.次に,自転車への愛着意識に着目し,それを活性化させる方策による放置駐輪削減の可能性を検証した.最後に,放置自転車の撤去について,その副次的な効果を「地域に対する疎外意識」の観点から検証した.
本研究は,旅客の空港ターミナル内移動に着目し,客観的な物理指標を用いてターミナル内の移動環境評価のための総合評価得点を算定するとともに,ターミナルの多面的機能や利用者の多様な考え方を体系的に明示化することを通じて,空港ターミナル内における旅客動線を総合的に評価することを目的とする.この目的の下,空港ターミナルの旅客歩行動線についての評価項目体系,並びに,評価指標を設定した.さらに,様々な国や地域の空港において評価指標取得のための歩行動線調査を実施し,各空港ターミナルの特徴を客観的に描出することを試みた.そして,空港利用者の考え方を体系的に明示化する方法論について検討した.
卒業論文
本研究では,Spiess and Florian 及び Nguyen and Pallottino により提案された公共交通機関を前提とした経路配分モデルを導入し,首都圏鉄道ネットワークへの適用可能性について検討を行う.具体的には,Common lines problem を前提に,プラットフォームでの待ち時間を明示的に考慮したHyperpath概念に基づく経路配分モデルの適用を試みた.その有用性を小規模の実ネットワーク上で検証した.
離散選択型の歩行者挙動モデルに基づく歩行者シミュレーションは,歩行空間の詳細な施設設計に資する可能性を持っている.しかし,モデルの未知パラメータを推定するためには,大量かつ高精度の歩行者挙動データを獲得する必要があり,効率的なデータ収集方法の開発が望まれている.本研究では,画像解析技術を援用した歩行者挙動データの自動抽出方法の有効性に関する基礎的検討を行った.具体的には,筆者らがこれまでに開発した背景差分に基づくデータ収集手法と,今回新たに提案したパーティクルフィルタを用いた手法の比較を行った.両手法によって得られたデータセットを用いて行動モデルを推定し,精度や安定性について比較検討を行った.その結果,新たに提案した手法が高精度かつ実時間でのデータ取得が可能であることが示された.
2008年度
修士論文
本研究では,自動車交通における所要時間定刻性向上の経済評価に必要とされる時間信頼性価値 (VTTV) の推計方法の開発を行う.まず,所要時間が出発時刻に応じてランダムに変動する不確実性下でのドライバーの出発時刻選択行動を記述するミクロ経済学モデルを構築した.次に,開発した手法の実適用可能性を検証するため,高速道路のETC システムから得られた所要時間のデータを用いて,理論モデルの実適用に必要となる前提条件が成立しているかどうかを検証すると共に,節約時間価値に対するVTTV の比率を算出した.最後に,提案した方法を用いてドライバーの総コストの変化値を算出し,施策実施前後における所要時間定刻性向上の経済便益の試算を行った.
卒業論文
近年の自動車市場の構造も大きな変化として,2003 年以降,自動車保有台数及び免許保有者数は増加する一方で,走行台キロが減少するという傾向に転じていること,また乗用車保有台数が横ばいであるのに対し,軽自動車保有台数が増加していることが挙げられる.本研究では,世帯特性・地域特性を考慮した自動車複数保有及び利用構造の分析を行い,離散連続モデルを用いた自動車保有ー利用の同時決定モデルを構築することを目的とする.分析には平成11年・17年の道路交通センサスの結果を利用するが,このような大規模データを用いて世帯特性・地域特性・複数保有を考慮するという点が本研究の最大の特徴となる.以上のデータ分析,モデル構築を踏まえて,本研究では最後に,ガソリン価格の影響,あるいは道路整備状況の変化等が自動車の保有・利用に与える影響について,感度分析を通じて検証を行った.
駅構内などの混雑歩行空間に対する施設設計案の策定に資するような歩行者挙動モデルを構築するため,速度決定,方向決定に様々な空間的条件が及ぼす影響を柔軟に考慮することができる離散選択モデルを適用した.また,離散選択モデルを基礎とした歩行者シミュレーションを行うためには,歩行者の移動軌跡や他者との相対的な位置関係に関する時空間的な座標情報が必要であり,本研究では動画像解析によって歩行者を精度よく自動検出するアルゴリズムの構築も行った.
2007年度
卒業論文
都市圏においては,短距離移動を過度に自動車に依存しており,徒歩移動可能な距離帯と公共交通で移動可能な距離帯との間におけるモビリティ・ギャップが存在していると考えられる.本研究では,モビリティ・ギャップを埋める交通手段として,新たな小型可搬式電動交通手段である”PMV(Personal Mobile Vehicle)”に着目し,「担うであろうトリップ距離帯の把握」,「利用意識を規定する心理要因の把握」,「利用促進と社会的受容性の向上を狙いとしたプロモーション方法」に関する実験的検討を行った.
自動車部門において地球温暖化対策や省エネ対策を検討する上で最も重要となる指標は,自動車の実走行時燃費(実燃費)である.平均速度向上など,全国レベルで温暖化対策の検討を行うためには,自動車使用地の地理的・社会的な特性が実燃費に及ぼす影響を評価するマクロ推計モデルが有用だが,検討事例は,ごく僅かしか存在しない.本研究では,近年我が国で実施された全国レベルの大規模調査から得られた自動車実燃費のデータを用いて,実燃費マクロ推計モデルの構築を行った.
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